サケ漁師が支える増殖事業、その金額は?

サケ漁師が漁獲高割負担金で支える北海道のサケ人工ふ化放流・増殖事業のイメージ

北海道でサケ釣りをしていると、たまにこんな意見を見かけます。

「漁師はサケをたくさん獲っているじゃないか」

確かに、サケ漁では大量のサケが水揚げされます。
釣り人からすると、「こっちは1匹、2匹を釣っているだけなのに……」と思ってしまうこともあるでしょう。

私も釣り人なので、その感覚はうーん、わからなくはないけど…ぐらい(笑)

でも今回、北海道のサケ・マス増殖事業について資料を調べていて、ちょっと驚く数字を見つけました。

私は子供のころから漁師の祖父、叔父を見ながら育ち、小学校1年生ぐらいから昆布を干したり、網から魚を外したり手伝ってきました。沖に出ると寒いし、波は高いし、風ビュンビュンの中、網から魚を外す仕事も本当に大変で、厳しい仕事なのは身に染みています。

特に真冬にあの真っ暗な中、一人で網を入れに行く危険性と言うのは想像を絶するものがあります。

そして、北海道の多くの漁業者側は、サケを獲って終わりではないんですね。

サケ・マスの水揚げ金額に応じて、「漁獲高割負担金」というお金を負担し、増殖事業を支えているんですね。

しかも、その金額。北見管内だけで、2025年度は……

シロ

約10億4,000万円。10億です!

「え、そんなに?」と思いますよね。

今回は、

漁業者はサケの増殖事業にどれくらいお金を出しているのか?
そのお金は何に使われているのか?
実際に何尾のサケを育てているのか?

にだけ焦点をあてて、可能な限り簡単にわかりやすく書いてみようと思います。

そして最後に、現在出されているサケ釣りの自粛要請についても考えてみます。


目次

そもそもサケは「自然に勝手に増えている」だけじゃない

北海道のサケ人工ふ化放流事業で、親サケの捕獲から採卵・受精・ふ化・稚魚育成・春の放流までの流れを示した図

まずここからですが、北海道の秋サケは、もちろん自然産卵する魚も沢山います。でも同時に、大規模な人工ふ化放流事業が行われています。

簡単にいうと、

川へ帰ってきた親サケを捕獲

卵を採る

受精させる

ふ化させる

稚魚を育てる

春に川から放流する

というものです。

サケ釣りをしていると、どうしても目の前の「釣れた!」、「今年は釣れない!」に意識が向きますよね。
でもその何年も前から、ふ化場では次の世代のサケを海へ送り出す仕事が続いているわけです。

そして当然ながら、それにはお金がかかります。


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「漁獲高割負担金」って何?

ここで登場するのが、さけ・ます漁獲高割負担金です。

名前がめちゃくちゃ役所っぽい(笑)。でも仕組みは意外と簡単で、ザックリ言うと

シロ

サケ・マスを水揚げした漁獲金額に応じ、その一定割合を負担する仕組みです。

北見管内さけ・ます増殖事業協会の令和7年度事業報告書にも、

「さけ・ます漁獲金額の定率分を漁獲高割負担金として受入れ」

と記載されています。

そして実際に2025年度に納められた金額がこちら。

魚種漁獲高割負担金
サケ10億3,515万円
マス195万6,000円
合計10億3,710万6,000円

北見管内だけです!

約10億4,000万円。

しかも2025年度はサケの不漁によって、当初計画していた約15億602万円に対して68.9%しか集まりませんでした。

つまり、

サケが獲れない

漁業者の水揚げが減る

増殖事業を支える負担金も減る

という関係になっています。

これ、なかなか厳しい仕組みですよね。

参考資料:
一般社団法人 北見管内さけ・ます増殖事業協会
第 13 事業年度事業報告書

参考資料:一般社団法人 日本海さけ・ます増殖事業協会
令和7年度事業報告書 PDFデータ


約10億円って、全部「稚魚代」なの?

ここは誤解しやすいところで、10億円全部を、そのまま稚魚を育てる費用に使っているわけではありません。サケの増殖事業って、実はかなり大がかりで、親魚を捕まえる捕獲施設も必要。卵を管理する設備も必要。稚魚を育てる池も必要。水を送るポンプも必要。電気代もかかる。

当然、そこで働く人も必要です。

だから漁獲高割負担金は、サケ・マス増殖事業全体を支える重要な財源の一つと考えるのが分かりやすいでしょう!


3億6,439万円は全道のふ化放流支援へ

そして、ここから北海道らしい大きな仕組みが見えてきます。

北見管内さけ・ます増殖事業協会は2025年度、北海道さけ・ます増殖事業協会が行う「ふ化放流支援事業」の財源として、3億6,439万円を拠出しています。

シロ

金額は、全道に占める北見管内の漁獲高割合52.3%をもとに算出されています。
つまり、自分たちの地区だけでお金を使って終了!と言うわけではないんですね。

北海道全体のサケ増殖事業を支える仕組みにも、お金が回っているようです。


ふ化場や捕獲施設にも、とんでもなくお金がかかる

さらに2025年度の事業報告を見ると、増殖施設の整備にもかなり大きなお金が使われています。例えば、

  • 網走捕獲場の魚留施設改修:約3億4,933万円
  • 網走ふ化場の受変電設備・非常用発電機など:約8,063万円

そのほかにも井戸、ポンプ、養魚池、取水施設、屋根などの整備が行われています。

「サケの卵を取って放せば終わり」というほど単純じゃないんですね。

川から水を引き、何千万、何億という卵や稚魚を管理し、毎年安定して放流する。
その裏にはかなり巨大なインフラがあります。

シロ

私、仕事で水回りの施設取り扱うことあるんですが、マジで、マージーで、水関係お金かかります…。
停電なんてなったら大変ですね…。その辺のリスク管理も大変なのですよ。


で、実際に何尾のサケを放しているの?

北見管内のサケ稚魚放流数を放流している画像

ここが一番分かりやすいところでしょう!

令和7年春。北見管内で放流されたサケ稚魚は、2億1,018万4,000尾。

2億尾です。

計画は1億8,050万尾だったので、実績は計画比116.4%でした。

シロ

そんなに稚魚を放流しているのに、どうして北海道のサケは減っているの?

実は北海道全体で見ても、放流数が大幅に減ったわけではありません。それ以上に大きく変化しているのが、海へ出たサケが北海道へ帰ってくる「回帰率」です。

放流数・来遊数・回帰率を長期データで比較した記事もありますので、「なぜサケが帰ってこなくなったの?」が気になる方はこちらもどうぞ。

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話を戻すと、それにしても、ものすごい数ですよね。ただし、「2億尾放したから2億尾帰ってくる!」なんてことには当然なりません。

海へ出たサケには、海水温、餌、海流、捕食、生残率など、いろいろな壁があります。

だからこそ、「どうやったら少しでも多く帰ってくるの?」という研究まで行われています。


47万尾の親サケから、約2億8,600万粒を採卵

2025年秋には、北見管内で、サケ親魚47万5,588尾を捕獲。そして、2億8,564万7,000粒の卵を確保しています。

さらに面白いのが、この卵を北見管内だけで使っているわけではないこと。
卵が不足していた地域へ、

根室管内:約4,278万粒
十勝・釧路管内:約496万粒

合計、約4,774万粒もの種卵を移しています。

北海道のサケ増殖って、地域ごとに完全に独立した事業ではなく、お互いに補い合っていることが分かります。

シロ

サケだけではなく、サクラマスでも行われていますね!

参考資料:一般社団法人 日本海さけ・ます増殖事業協会
令和7年度さけ増殖事業実績 PDFデータ


「どう放したら帰ってくる?」まで研究している

シロ

さらに資料を読んでいて面白かったのがここです!

ただ大量に放流しているだけではありません。

研究機関と一緒に、

  • どの水温で放すといいのか?
  • どのくらいの大きさで放すのか?
  • 飼育密度を変えたらどうなるのか?
  • いつ放した魚が戻ってくるのか?

といった研究もしています。

例えば斜里川では、沿岸水温が
3~5℃
7~8℃
10~13℃

という異なる時期に同じサイズの稚魚を放し、将来の回帰数を比較。

常呂川では、放流時期や魚体サイズ、飼育密度による違いを研究しています。

これはかなり大事な話で、今のサケ資源が厳しいからこそ、「今まで通り2億尾放せばOK!」

ではなく、「どうやったら、もっと帰ってくる2億尾にできる?」を調べているわけです。


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ただし「漁業者がお金を出した=サケが増えた」ではない

ここまで読むと、「漁業者が10億円も出して2億尾放してるんだから、サケは増えるはず!」と思ってしまいますが、今回見た現在のデータからそこまでは言えませんし、今の漁獲量が物語っていると思います。

人工ふ化放流を続けていても、北海道のサケ資源はかなり厳しい状況ですよね。

シロ

実際、令和7年のオホーツク管内へのサケ来遊数は、320万尾。
前年のわずか30%で、昭和63年以降最低となりました。

その結果、漁獲高割負担金の収入まで大きく落ち込んでいます。つまり、

お金をかけて放流している=必ず資源が増える

という単純な話ではありません。でも、資源が厳しい中でも、次の世代につなぐ仕事を続けているという事実はあります。自分はここは分けて考えた方がいいと思います。


そして2026年、サケ釣りの「自粛要請」が出た

役場の人が釣り人に、サケ釣り自粛のお願いをしている画像

そして現在。2026年8月30日、北見管内ではありませんが、別海町は「サケ釣り自粛に関するご協力のお願い」を公表しました。
別海町ホームぺージ:サケ釣り自粛に関するご協力のお願い

根室管内のサケ来遊数が、前年より52%減少する見通しとなったためです。

期間は、2026年9月1日~9月20日。そして今回、かなり重要なのが、釣り人だけに、「サケを釣らないでください」と言っているわけではないんですね。

ここで一つ注意したいのが、今回の「自粛要請」と「河口規制」は別のものだということです。

北海道には、サケ・マスを守るために河口周辺で釣りが禁止される区域や期間が細かく設定されています。こちらは「今回は釣りを控えてほしい」という自粛要請とは性質が違います。

「この河口は釣っていいの?」「いつから禁止?」という方は、北海道の河口規制を一覧にした記事で確認できます。

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漁業者も9月20日まで「網入れ延期」

根室管内さけ・ます増殖事業協会では、将来のサケ資源を守るため、9月1日から20日まで秋サケ漁の網入れを延期する自主規制を実施しています。

つまり漁業者自身も、サケが獲れる時期なのに、網を入れるのを待つという判断をしています。

そのうえで、

規制期間中は、海岸や海域でのサケ釣りを控えてほしい

という協力要請が釣り人にも出されています。


「漁師は獲ってるんだから、俺も釣る」は少し違って見える

もちろん、漁業と遊漁は同じものではありません。目的も規模も制度も違います。それに今回の要請は、法律による全面的なサケ釣り禁止と同じ意味でもありません。

だから、「自粛要請が出たんだから絶対に釣りに行かない!」と言うのは個人の裁量で考えればよいと思っています。

シロ

ただ今回、増殖事業のお金の流れを調べたことで、少し見え方が変わった方もいるのではないでしょうか?

漁業者はサケを獲る。でも同時に、水揚げから負担金を出し、ふ化場や捕獲場を支え、親魚を確保し、卵を採り、何億尾もの稚魚を育てて放流する仕組みも支えています。

北海道も、秋サケ資源を持続的に利用するため、漁業者等が経費を負担する形で人工ふ化放流事業が行われていると説明しています。

そして今年は(去年もですが)、その漁業者自身が網入れを延期しています。ここまで知ると、「漁師も獲ってるんだから自分も関係ない」だけでは、ちょっと話が終わらなくなってきます。


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それでも、最後に決めるのは自分

サケ釣りに自粛について、河原で考える釣り人の画像

私もサケ釣りが好きです。シーズンを待って、仕掛けを作って、ルアーを選んで、「そろそろ来るかな?」とワクワクしますよね。だから、「今年は釣りを控えてください」と言われて、何とも思わないわけではありません。

シロ

楽しみにしていた人ほど迷うでしょう…。

ただ今回、資料を調べてみて分かったことがあります。2025年度、北見管内の漁業者は約10億円の負担金を納め、2億尾を超える稚魚を育てて放流しました。厳しい資源状況の中でも、そうした仕組みは続いています。

そして現在、全道では厳しい来遊見通しを受けて、漁業者自身が網入れを延期しています。そのうえで、釣り人にも自粛への協力が呼びかけられています。

漁業者はどれだけ負担しているのか。
そのお金で何が行われているのか。
サケ資源は今どんな状態なのか。
そして漁業者自身は今年どう動いたのか。

では、釣りに行くのか。それとも、今回は竿を置くのか。

それは個人で考えればよいことだと思っていますし、法律上できることと、資源のために自分がどう行動するかは、必ずしも同じ話ではありません。だからこそ、まず事実を知る。

最後に決めるのは、一人の釣り人のあなた自身です。

もっと詳しくあわせて読みたい

今回の記事では「サケを増やすために、どんなお金と取り組みが動いているのか」を見てきました。

では、これだけ放流を続けているのに、なぜ北海道のサケは減っているのでしょうか?

次の記事では、北海道の漁獲量・放流数・来遊数・回帰率を長期データで並べて、その変化を追っています。

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