ブリの視力はどれくらい?釣り人が知っておきたい魚の目の世界
釣りをしていると、ふと疑問に思うことがあります。「ブリって、どれくらい目がいいの?」と。
青物らしく回遊スピードも早く、ベイトを俊敏に追うブリ。その目に、ルアーや仕掛けはどんなふうに映っているのか?
今回は科学的な研究論文をもとに、ブリの視力に迫ります。釣りの妄想がさらに広がる情報が満載ですよ!
ブリの視力は本当にいいのか?

フィッシュイーター=目がいい、は本当?
ブリのようなフィッシュイーター(肉食魚)は、一般的に視力が良いとされています。小魚を目視で追うには当然、目が重要。特に青物は水晶体が大きく、視覚に優れているという説もよく耳にします。
とはいえ、「実際、どの程度見えてるの?」と疑問が残ります。
科学的に調べられたブリの視力
実験の対象となった個体
2001年に発表された『ブリの視力の成長にともなう変化』(宮城美加代・秋山清二・有元貴文)の論文では、以下のサイズのブリが対象として実験されました。
- 15〜73mm:20個体
- 179〜280mm:8個体
- 356〜392mm:15個体
これらのブリの網膜から錐体密度や水晶体の直径を測定し、視力(Visual Acuity, V.A)を割り出しました。
視力にも方向がある?水平視力と鉛直視力ってなに?
ブリの視力を語る前に、この先出てくるのが「水平視力」と「鉛直視力」という言葉。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、実はこれ、どちらも“見える方向”による視力の違いを表しています。
たとえば人間の場合でも、目の構造や筋肉の動きによって、横方向(水平)を見るのが得意な人もいれば、上や下(鉛直)方向がちょっと苦手、というケースがあります。とはいえ、ふつうに生活している分にはそれほど大きな違いは感じませんよね。
人間の平均的な視力は1.0前後と言われており、これは5メートル先の視力検査表にある「C(ランドルト環)」の隙間をしっかり見分けられる力を示しています。
では魚の場合はどうでしょう?
ブリの場合、「水平方向の視力」=横に向かってどれだけ細かいものが見えるか、
「鉛直方向の視力」=上下に向かってどれだけ細かいものが見えるか、という違いになります。
今回紹介した研究では、ブリはこの両方向でほぼ同じくらいの視力を持っていることがわかりました。つまり、ブリは上下左右バランスよく、広い範囲を高精度で見渡しているということですね。
水平視力と鉛直視力の違い
先程、「水平視力」と「鉛直視力」について説明しましたが、この論文で宮崎氏、秋山氏、有元氏は
水平方向の視力は体長44mmの個体で0.04-0.05、183mmの個体で0.11-0.15、375mmの個体で0.17-0.19であり、鉛直方向の視力は44mmの個体で0.04-0.05、183mmの個体で0.13-0.15、375mmの個体で0.17-0.2であった。大きな個体ほど視力は高いがどの成長段階においても、水平・鉛直各平面におけるすべての方向に対してほぼ一定の視力を示し、ある一方向の視力が特に高いと言う傾向は見られなかった。
引用:ブリの視力の成長にともなう変化 2001 宮城美加代 秋山清二 有元貴文
と述べられており、表にすると以下のようになりました。
個体サイズ | 水平視力 | 鉛直視力 |
---|---|---|
44mm | 0.04-0.05 | 0.04-0.05 |
183mm | 0.11-0.15 | 0.13-0.15 |
375mm | 0.17-0.19 | 0.17-0.20 |
つまり、大きい個体ほど視力が良くなる傾向があります。しかし、特定の方向(前方や上方)だけが極端に見える、という特徴はなく、水平方向・鉛直方向ともにほぼ均一に視力が発達しているとのこと。
成長と視力の関係を数式で表すと?
この論文では、体長(BL)と視力(V.A)の関係が次の数式で表されると示されています
V.A = 0.0051BL^0.6223,(r^2 = 0.97)
これをもとに、様々なサイズのブリの視力を推定してみましょう。
個体サイズ | 推定視力 |
44mm | 約0.05 |
183mm | 約0.13 |
375mm | 約0.20 |
500mm | 約0.24 |
750mm | 約0.31 |
1000mm | 約0.38 |
つまり、1メートル級のブリになると、マグロにも匹敵する視力を持つ可能性があるわけです!
実際にどれくらい遠くが見えるのか?
別の方法でもブリの視力が評価されています。390mmサイズのブリを使い、水中での最大視程(もっとも遠くに見える距離)を測定した結果、以下のような結論が出ているようです。
わずか2cmの餌やロープを、なんと約25.7m先から識別可能!
ちなみに、同サイズのスケトウダラは約11.2mとのことで、ブリの視力の高さが際立っています。
釣りにどう活かせる?妄想が広がるブリ視力の世界

魚探15mの反応に反応する理由
「魚探に映る15mラインのブリが、誘い出しで食ってくる理由がこれか!」
そう思わずうなずいてしまう視力の鋭さ。仕掛けやルアーのシルエット、カラー、動き方の違いをしっかり見極めている可能性がありますね!
釣り人が意識すべきポイント
- ルアーのサイズやシルエット:見切られやすいかも?
- リーダーやフックの反射:違和感につながる?
- ベイトとの距離感:遠くから見えている可能性も。
ブリ視力の研究から得られる実釣ヒント
【ポイント整理】
・ブリは大きくなるほど視力が良くなる
・水平方向も鉛直方向も視力はほぼ同じ
・1m級になると最大0.38の視力を持つ
・25m先の小さなターゲットも視認可能
【実釣への応用】
大型のブリほど、ルアーの違和感に敏感。水中での光の反射や形状の違いを見抜いている可能性が高いので、リアルなベイトルアーやナチュラルアクション重視のセッティングがカギになりそうです。
【実釣Tips】
まとめ:ブリの目を制する者が釣りを制す!?
視力という切り口からブリを見てみると、彼らがどれほど”見えている”のかがわかります。サイズが大きくなるほど、その目は遠くを見通し、私たちの仕掛けを見極めているのかもしれませんな。
釣果アップには「ルアーの見え方」を考える視点も大事ですね。さあ、次はどんな目でルアーを見てくるのか、ブリの気持ちになってみましょう!
引用文献
宮城美加代・秋山清二・有元貴文(2001)『ブリの視力の成長にともなう変化』日本水産学会誌 63(3), 455-459. https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan1932/67/3/67_3_455/_pdf/-char/ja