「低気圧が来るとサケが岸寄りする!」、「雨の翌日はサケが釣れる!」
サケ釣りをしていると、こんな話を一度は聞いたことがありませんか?
確かに、台風や大雨の後にサケが増えたように感じる日がありますよね。
でも、本当にサケは気圧の低下や増水を感じて、「よし、岸へ行こう!」と動いているのでしょうか。
釣り人なら知りたくてウズウズするハズです(笑)
サクラ低気圧が来ると魚が浮くって聞くけど、サケも同じなの?
実際の研究を調べてみると、サケが反応しているのは、低気圧そのものよりも、強風や高波によって起こる「海水温の変化」である可能性が高いことが分かりました。
しかも、台風が近づいた海の中では、サケが「冷たい水はどこだ?」と探し回るような、ちょっと意外な行動も観測されています。
今回は、台風や発達した低気圧が来たとき、サケが海中でどのように動くのかを、論文をもとに楽しく読み解いていきます!
結論|台風が来るとサケは深く潜らなくなることがある


最初に結論です!
台風や発達した低気圧が来ると、サケや海の動きは次のように変化する可能性があるようです。
- 台風前は、表層の高水温を避けて深く潜る
- 強風と高波で海がかき混ぜられる
- 暖かい表層と冷たい深場の境目が崩れる
- 深く潜っても、冷たい水を見つけられなくなる
- 上下移動する時間が短くなる
- 結果として、表層付近で過ごす時間が増える
ここが今回の大切なポイントです。
サケは「台風が来たぞ!」と感じて表層へ浮いてくるわけではありません。
強風や高波で深場の冷たい水の層が崩れ、わざわざ深く潜るメリットが小さくなるのです。



低気圧そのものより、低気圧によって海の中がどう変わったかが重要なんだ!
さらに、大雨で河川水が増えると、サケが母川を探すための手がかりも変化します。
つまり、サケの動きを左右しているのは、気圧だけではなく、風、波、海水温、河川水、潮位などが組み合わさっていると考えた方がよいでしょう!
北川さんら(2016)は、低気圧の通過に伴って海中の水温構造が変化し、シロザケの鉛直移動が短くなったことを報告しています。
参考文献:Kitagawa et al.(2016)
普段のサケは水温に合わせて上下移動している


台風が来たときの動きを知る前に、まずは普段のサケがどのように泳いでいるのかを見てみましょう!
秋の沿岸では、海面付近だけが暖かく、その下に冷たい水が残っていることがあります。
この暖かい表層と冷たい下層の境目が「水温躍層」(すいおんやくそう)です。
簡単にいうと、海の中に「暖かい階」と「冷たい階」ができている状態です。
回帰中のサケに記録計を取り付けた研究では、サケが高水温の表層を避け、深い低水温層へ潜る行動が確認されています。
暑くなったら、冷房の効いた部屋へ移動するようなものですね。



サケにも海の中の避暑地があるんだね!
しかも、成熟したサケは沿岸へ戻る頃にはほとんど餌を食べません。
体内に蓄えてきたエネルギーだけで、
- 母川を探す
- 川を遡る
- 産卵場所まで移動する
- オスは競争する
- メスは産卵床を掘る
- 最後に産卵する
という大仕事をやり遂げなければなりません。
サケにとって冷たい水を選ぶことは、単に「涼しくて快適」というだけではなく、産卵まで体力を残すための、大切な省エネ作戦なのですね。
田中さんら(2000)は、沿岸を回帰するシロザケが暖かい表層と冷たい深層を行き来し、行動によって体温を調節していることを報告しています。
サケが普段どの深さを泳いでいるかについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。


参考文献:Tanaka et al.(2000)、Abe(2022)
低気圧が通過すると水温躍層が崩れる


さて、ここで低気圧の登場です!
発達した低気圧や台風が近づくと、海上では強い風が吹き、高い波が発生します。
すると、暖かい表層水と冷たい下層水が、強制的にかき混ぜられます。
海全体を巨大なスプーンでぐるぐるとかき混ぜるような状態です。
このように、海水が上下方向に混ざる現象を「鉛直混合」(えんちょくこんごう)といいます。
沿岸の水温構造は、次のように変化します。
| 状況 | 海中の水温構造 |
|---|---|
| 低気圧通過前 | 表層は暖かく、深場には冷たい水がある |
| 強風・高波の発生中 | 表層水と下層水が混ざり始める |
| 強い鉛直混合後 | 広い水深で水温がほぼ均一になる |
表面だけを見ると、海水温が下がってサケにとって好条件になったように見えるかもしれません。
ところが、海の中全体を見ると事情が違います!
表層の水温が下がる一方で、深場にあった低水温層は消えてしまいます。
サケから見ると、「いつも逃げ込んでいた冷たい部屋がなくなった」という状態です。



表面は冷えるけど、深場にあった冷たい水の層も消えてしまう。ここが少しややこしいポイントです!
北川さんら(2016)は、低気圧による強い波で水温躍層が崩れ、広い水深で水温差が小さくなったことを報告しています。
参考文献:Kitagawa et al.(2016)、Abe(2022)
実際の研究ではサケはどう動いたのか


では、海がかき混ぜられたとき、サケは実際にどう動いたのでしょうか?
三陸沿岸で行われた研究では、回帰中のシロザケに発信器を取り付け、低気圧通過前後の動きが調べられました。
低気圧が来る前
低気圧が来る前、追跡されたサケは水温躍層を越え、水深100mより深い場所まで潜っていました。
しかも、ほんの数分だけではなく、数時間にわたって深い場所へ移動するサケも確認されています。



水深100mより深くまで!?岸近くを泳ぐイメージとは全然違うね!
表層の水温が高かったため、深場の冷たい水を利用していたと考えられます。
低気圧が近づいたとき
ところが、低気圧による強い波で海がかき混ぜられると、水深150m付近までの水温がほぼ均一になりました。
そのとき、サケには次のような変化が見られました。
- 深く潜っている時間が短くなった
- 鉛直移動の継続時間が変化した
- 表層付近で過ごす時間が長くなった
- 深く潜っても低水温層を見つけられなくなった
- 低気圧通過前より高い水温を経験するようになった
サケとしては、いつものように「冷たい水を探しに行こう!」と潜ったものの、深く行っても水温がほとんど変わらない状態だったのでしょう。
もちろん、サケが本当にそう考えたかは分かりません。
しかし、記録された行動からは、冷たい水の層が消えたことに合わせて、上下移動の仕方を変えた様子が見えてきます。
参考文献:Kitagawa et al.(2016)、Abe(2022)
北川さんら(2016)は、深場に冷たい水がなくなったことで、サケが長時間潜り続ける必要がなくなった可能性を示しています。
なお、この研究が直接調べたのは三陸沿岸を通過した低気圧です。すべての台風で同じ行動が起きると確認した研究ではないので要注意です。
気圧が下がったことを感じて移動しているのか


ここまで読むと、こんな疑問が出てきます。



結局、サケは気圧が下がったことに反応しているの?
今回紹介した研究では、サケが気圧の低下を直接感じて表層へ移動したとは結論づけられていません。
研究で確認された大きな変化は、低気圧によって発生した強風と高波が海をかき混ぜ、水温構造を変化させたことです。
流れを整理すると、次のようになります。
低気圧の接近
→ 強風と高波が発生
→ 海がかき混ぜられる
→ 水温躍層が崩れる
→ 深場の低水温層がなくなる
→ サケの鉛直移動が変化する
そのため、「気圧が下がるとサケが浮く」というよりも、
低気圧によってサケが利用していた水温環境が変わり、その結果として深く潜る時間が短くなった
と考えた方が、研究内容に近いと感じています。
北川さんら(2016)の研究は、気圧に対する直接的な反応ではなく、低気圧に伴う水温変化とサケの行動を調べたものです。
参考文献:Kitagawa et al.(2016)
雨が降るとサケは岸寄りするのか


台風や低気圧がもたらすのは、風と波だけではありません!
忘れてはいけないのが「雨」です。
大雨が降ると河川流量が増え、河口から海へ流れ出す淡水の範囲も広がります。
サケは母川に近づくと、河川水に含まれる化学的な情報を利用して、生まれた川を探すと考えられています。これは多くの釣り人の方もご存じと思います。
岩手県の大槌湾で行われた研究では、沿岸へ広がる河川水の流れと、サケの移動経路がよく対応していました。
雨によって河川水が沖まで広がれば、サケが母川を探すための「匂いの道」も広がる可能性があります。



雨で増えた河川水が、サケを母川へ案内する道しるべになる可能性があるみたいですね。
雨や強い西風の翌日に漁獲量が増えた
1996年と1997年の大槌湾におけるサケ漁獲量と気象条件を分析した研究では、釣り人として気になる結果が出ています!
さらに、両年で最も漁獲量が多かった日は、最大降水量または強い西風が最も長く続いた日の翌日でした。



やっぱり雨や風の翌日はチャンスなの?
気になる結果ですが、「雨が降れば必ずサケが岸寄りする」とまではいえないのが現状です。
それでも非常に興味深いデータが残っていますよね。
漁獲量は、次のような条件にも左右されます。
- 沿岸の海水温
- 風向きと風速
- 河川流量
- 河川水が広がる方向
- 潮位と潮流
- サケの成熟状態
- 定置網の位置
- その年の来遊数
雨だけを見るのではなく、雨によって海と川がどう変わったのかを見る必要がありそうです。
乙部さんら(2000)は、三陸沿岸の大槌湾で、降雨や強い西風の翌日にサケの漁獲量が増える傾向を報告しています。また、野畑さんら(2019)は、湾内に広がる河川水がサケの母川回帰を導く可能性を示しています。
参考文献:Otobe et al.(2000)、Nobata et al.(2019)
台風前・通過中・通過後のサケの動きを整理



ここまでの研究結果を、時系列で整理してみましょう♪
台風・低気圧の通過前
海面水温が高く、深場に冷たい水が残っている場合、サケは水温躍層を越えて深く潜ります。
表層と深場を行き来しながら、体温やエネルギー消費を調節していると考えられます。
台風・低気圧の通過中
強風と高波によって、海水の鉛直混合が進みます。
深場の低水温層が崩れると、サケが潜っても水温があまり下がらなくなります。
その結果、深く潜る時間が短くなり、表層付近で過ごす時間が増えることがあります。
ただし、海が大荒れになるため、絶対に釣りをしてはいけない状況ですよね。
台風・低気圧の通過後
表層と深場の水温差が小さくなり、サケの遊泳層が通過前とは変わる可能性があります。
さらに、降雨で河川流量が増えていれば、河川水の広がり方も変化します。
この変化が、サケの母川探索や河口への接近に影響する可能性があります。
一方で、濁り、流木、急流、大きなうねりが長く残ることもあります。
「台風が通過したから、もう大丈夫」とは限りません!



天気が回復しても、海が安全とは限りません。波とうねりを必ず確認しましょう!
参考文献:Kitagawa et al.(2016)、Tanaka et al.(2000)、Otobe et al.(2000)、Nobata et al.(2019)
サケ釣りではどう考えればよい?



ここからは、研究結果をサケ釣りに当てはめて考えてみます!
ただし、今回紹介した論文は「どの棚でルアーを引けば釣れるか」を調べた研究ではありませんので、以下は私の考えで、サケの行動研究から考えられる釣りへの応用です!
表層水温が下がった場合
海が混ざって表層水温が下がると、それまで深い層にいたサケが浅い層を利用しやすくなる可能性があります。
表層水温の低下をどう考えるかはあなた次第!!



ショアからの釣りはチャンスかもしれませんよ?
浮きルアーの基本的な仕掛けと釣り方については、こちらで解説しています。


河川水が沖へ広がっている場合
降雨後は、濁った河川水と海水の境目が沖まで伸びることがあります。
サケが河川水の情報を利用して母川を探しているなら、河川水と海水の境界付近が移動経路になる可能性があります。
ただし、北海道では河口付近にサケ・マスの採捕規制が設定されている場所があります。
河口周辺で釣りをする場合は、必ず最新の規制範囲と規制期間を確認してください。


「台風の翌日は爆釣する」は本当?


台風や大雨の後にサケの漁獲量が増えた研究例はあります。
しかし、どこの海岸でも台風の翌日に釣果が上がるとは限りません!
台風によって起こる変化は、毎回同じではないからです。
- 表層水温が下がる
- 沿岸全体の水温が高くなる
- 河川水が沖へ広がる
- 河川水が岸沿いに流れる
- 強い濁りが発生する
- 流木が増える
- 大きなうねりが長く残る
さまざまなパターンが考えられます。



低気圧だから釣れるのではなく、低気圧が海と川をどう変えたかを見るのがポイントです!
台風や低気圧によって水温、河川流量、風、波、潮流が変化し、その結果としてサケの遊泳層や沿岸での移動経路が変わる可能性があると考えられます。



天気予報だけでなく、海水温、波高、風向き、河川流量まで確認すると、サケの動きを予想する楽しみがさらに広がりそうです!
参考文献:Otobe et al.(2000)、Kitagawa et al.(2016)
まとめ|サケが反応しているのは気圧よりも水温と河川水


台風や発達した低気圧が通過すると、海の中では想像以上に大きな変化が起きています。
今回の研究から分かったことをまとめます。
- 普段のサケは高水温の表層を避けて深場の冷水層へ潜る
- 強風と高波で水温躍層が崩れる
- 深場へ移動しても冷たい水を見つけにくくなる
- 深く潜る時間が短くなり、表層で過ごす時間が増える場合がある
- 降雨や強い西風の翌日に漁獲量が増えた研究例がある
- 河川水の広がりが母川探索や沿岸移動に影響する可能性がある
- 「低気圧が来れば必ず岸寄り・爆釣」ではないがショア釣りはチャンスが増えそうな予感
結論として、台風・大雨後はサケが釣れやすくなる場合がある、ということがわかりました。
サケが反応しているのは、気圧計の数字そのものというより、低気圧によって変化した水温、波、風、河川水なのかもしれません。
海面からは見えませんが、その下ではサケが「冷たい水はどこだ?母川の匂いはどっちだ?」と動き回っています。
そう考えると、天気図や海水温を見るだけでも、サケ釣りが少し楽しくなりませんか?



次に低気圧が来たら、気圧だけじゃなく海水温や川の流れも見てみよう!
ただし、サケの動きを予想する楽しみは、海が完全に安全になってからにしましょう!
参考文献
- Kitagawa, T., Hyodo, S. & Sato, K.(2016)Atmospheric depression-mediated water temperature changes affect the vertical movement of chum salmon Oncorhynchus keta. Marine Environmental Research, 119, 72–78.
- 阿部貴晃(2022)異なる水温環境への魚類の代謝応答―サケ科魚類の温度適応を中心として―. 日本生態学会誌, 72, 73–83.
- Tanaka, H., Takagi, Y. & Naito, Y.(2000)Behavioral thermoregulation of chum salmon during homing migration in coastal waters. Journal of Experimental Biology, 203, 1825–1833.
- Otobe, H., Takagi, Y. & Anbo, A.(2000)Relationship between Homing Behavior of Chum Salmon Returning to the Sanriku Coast and Sea and Weather Conditions. 日本水産学会誌, 66, 705–712.
- Nobata, S. et al.(2019)Spreading of River Water Guides Migratory Behavior of Homing Chum Salmon Oncorhynchus keta in Otsuchi Bay, a Narrow Inlet with Multiple River Flows. Zoological Science, 36(6), 449–457.

