サケ釣りをしていると、こんな話を聞いたことはありませんか?
「メスのサケを狙うなら、棚を少し深くした方がいい」
「オスは浮いているから浅い棚で釣れる」
「底の方を流せばメスが増える」
サケ釣りではメスを狙いたい人も多いので、もし本当なら見逃せない話です。
サクラ棚を変えるだけでメスを狙って釣れるなら、絶対試したいんだけど…本当なのかな?



気になったので、シロザケの遊泳深度や鉛直移動を調べた学術論文・研究報告を確認してみました。結果、かなり面白いことが分かりましたよ!
結論:メスが深いという科学的根拠は確認できない
今回確認した研究の範囲では、
- 「メスのサケはオスより深い場所を泳ぐ」
- 「オスは浅い棚、メスは深い棚にいる」
と結論づけられる根拠は見つかりませんでした。
むしろ分かってきたのは、シロザケの遊泳深度そのものが次のような要因で大きく変わるということです。
- 同じ個体でもかなり大きく上下する
- 昼と夜で泳ぐ深さが変わる
- 水温によって深さが変わる
- 温度躍層の位置が行動に影響する
- 海底地形や周囲の環境にも影響される



え、性別関係ないの…? じゃあ何が棚を決めてるの?



『性別で棚が決まる』のではなく、『そのときの環境や魚の行動によって棚が変わる』と考えた方が、研究結果には合っています!
そもそも「棚」とは?
釣り初心者向けに説明すると、釣りでいう「棚」とは、魚が泳いでいる水深のことです。
たとえばウキルアーなら、ウキからルアーまでの長さがそのまま狙う水深になります。1.5mなら水面下1.5m付近、2m・3mと伸ばせばより深い層を狙えます。
群れが水面直下にいるのに3m下を通しても見てもらえませんし、逆に魚が深い日に表層ばかり引いても効率は悪くなります。
だからこそ「オスとメスで棚が違うのでは?」という疑問が出てくるわけです。
研究1:追跡調査では雌雄差「認められず」


青森県水産試験場では、サケに発信器を装着して海中行動を追跡する調査が行われています。
この調査では、サケが定置網に近づくと表層まで浮上し、船に近づかれると海底付近まで潜るなど、大きな鉛直移動が観察されました。
そして雌雄については、報告書にこう記されています。



顕著な相違なし……つまりオスもメスも似たような動きってこと?



この調査ではそうなりますね。もちろん個体数や海域、時期によって変わる可能性はあるので『雌雄差は絶対ない』とまでは言えません。ただ、『メスは深い棚を泳ぐと証明されている』という話でもないんです。
参考:青森県水産試験場(1982年度)「バイオテレメトリーによるサケ親魚の追跡調査」『昭和57年度 青森県水産試験場事業概要』
研究2:知床のメスは350mまで潜っていた


添田秀男らが1985年に発表した、知床半島沿岸でのシロザケ追跡研究も興味深い結果です。
深度センサー付き発信器で追跡した個体の平均遊泳水深は次の通りでした。
| 個体 | 平均遊泳水深 |
|---|---|
| 1例目 | 85.3m |
| 2例目 | 23.8m |
さらに、深い場面では推定約350mまで潜った記録もあります。



350mって、もはや別の魚みたいな深さ……!



しかもこの2尾、どちらも“メス”なんです。深いところだけを泳いでいるわけじゃなく、深く潜ることもあれば浅くまで浮上することもある。とにかく上下によく動く魚なんですよ!
参考:Soeda, H., Yoza, K., Shimamura, T., Hasegawa, E. & Yoshihara, K. (1985). On the Vertical Moving Behaviour of Chum Salmon Early Migratory Season off the Coast of Shiretoko Peninsula. Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries, 51(9), 1425–1429.
研究3:昼と夜で棚が変わる


Ishidaらは、日本に回帰するシロザケにアーカイバルタグを装着し、23日間の行動を記録しました。
| 時間帯 | 平均遊泳水深 |
|---|---|
| 昼 | 12.8m |
| 夜 | 4.8m |
さらに夜間は、観測時間の85%を水深10m以内で過ごしていました。



夜になると一気に浮いてくるんだ!てっきり時間帯は関係ないと思ってた。



明瞭な日周鉛直移動が確認された例です!性別だけで棚を説明するのが、いかに難しいかが分かりますよね。
参考:Ishida, Y., Yano, A., Ban, M. & Ogura, M. (2001). Vertical movement of a chum salmon Oncorhynchus keta in the western North Pacific Ocean as determined by a depth-recording archival tag. Fisheries Science, 67, 1030–1035.
研究4・5:水温が棚を大きく左右する


三陸沿岸の研究では、発信器を付けたサケが100mを超える深さまで鉛直移動していましたが、低気圧の通過で海水が混ざり水温構造が変わると、深く潜る時間が減り表層にいる時間が増えました。
さらに2023年の知床研究(Li et al.)では、回帰するシロザケが急激に水温が下がる温度躍層を避け、表層または水深210〜230mという深い層を利用する様子が確認されています。



210〜230mって、サーフや港からは想像もつかない世界だよ……



沖合から沿岸へ回帰する過程では、それだけ大きく上下することがあるということですね。水温構造は棚を考えるうえでかなり重要な要素です!
参考: Kitagawa, T., Hyodo, S. & Sato, K. (2016). Atmospheric depression-mediated water temperature changes affect the vertical movement of chum salmon Oncorhynchus keta. Marine Environmental Research, 119, 72–78.
Li, X. et al. (2023). Impact of Multiple Water Temperature Structures on the Behavioral Pattern of Chum Salmon (Oncorhynchus keta) on the Coast of the Shiretoko Peninsula. Journal of Marine Science and Technology–Taiwan, 31(4), Article 14.
「深い棚だとメスが釣れる」は全部ウソ?
ここは注意が必要です!今回の研究結果は「深い棚でメスが釣れやすいなんて絶対ウソ」と言い切れるものでもありません。



でも実際、深くしたらメスばっかり釣れた日があったんだよね……あれは気のせい?



その経験自体を否定する必要はないと思います!
問題は“理由”です。
たとえばその日の群れがたまたま『オス7割・メス3割』だったとします。浅場を通る群れがオス主体なら、浅い棚ではオスが多く釣れますよね。



なるほど……次に『オス3割・メス7割』の群れが入れば、同じ棚でもメスが連発するってこと?



そういうことです。それを数回経験すると『この棚はメスが釣れる』という経験則が生まれますが、それだけでは性別そのものが遊泳水深を決めている証拠にはならないんです。
性別より重要そうな5つの要素
研究を釣り目線で整理すると、棚を考える際は雌雄より次の要素を意識した方が良さそうです。
昼夜で遊泳水深が変化する例が確認されています。朝マズメ・日中・夕マズメでも群れの位置は変わる可能性があります。
シロザケは水温構造に応じて大きく鉛直移動します。表面水温だけでなく、水中の温度躍層も関係している可能性があります。
青森の追跡調査でも、行動には海底地形の影響が考えられています。サーフ・港・河口・急深な場所など、場所が変われば「釣れる棚」も変わります。
岸沿いを移動中の群れか、河口周辺で滞留している群れか、港内へ入ってきた群れか。状態が違えば泳ぐ深さも変わります。
定置網や船に対してサケが上下方向へ移動する様子も観察されています。魚は一定の深さを直進しているわけではなく、頻繁に上下しているのです。



性別より、こっちを気にした方が釣果に直結しそうだね!
実釣では「メス狙いの棚」より「群れの棚」を探す
では実釣りではどうしたらよいでしょう!?
ウキルアーで「メスが欲しいから今日は3m」と最初から決め打ちするより、その日サケが通っている棚を探す方が理にかなっています!
サケのウキルアー釣りでは、棚だけでなくロッド・リール・ライン・ウキ・ルアーなど仕掛け全体のバランスも重要です。これから始める方は、「初心者でも釣れる!サケのウキルアー仕掛けの選び方」で必要な道具や仕掛けを詳しく紹介しています。


周囲の状況を見て、
- 1m前後で連発している → まずその棚を狙う
- 跳ねは見えるのに表層で反応がない → 少しずつ棚を下げる(1.0m→1.5m→2.0m→2.5m)
というように調整する方が、「オス用」「メス用」と決めるより実際の魚の行動に合わせられます。
それでもメスを狙って釣る方法はない?
残念ながら、今回確認した研究からは「棚を○mにすればメスの確率が上がる」という答えは出せませんでした…。



結局、メスを狙って釣る方法はないってこと……?



無理に答えを作らない方が誠実だと思うので、正直にそう言うしかないですね。ただ面白い可能性もあって、もし本当に棚によって雌雄比が変わるなら、データを集めれば検証できるんです!
ちなみにですね、記録するとよさそうな項目はこちらです。
- 釣った日時・場所・棚
- オス/メス
- 水深・表面水温
- 潮位・天候・ヒット時刻
これらを数百匹単位で記録していけば、「棚と雌雄に本当に関係があるのか」を釣り人側から検証できます。研究熱心な釣り人であれば、これは少しやってみたくなりますね。
まとめ


| 説 | 現時点での評価 |
|---|---|
| オスは浅い棚を泳ぐ | 科学的根拠は確認できない |
| メスは深い棚を泳ぐ | 科学的根拠は確認できない |
| 棚によって雌雄を釣り分けられる | 確立した根拠なし |
| サケは上下に大きく移動する | 研究で確認されている |
| 昼夜で遊泳深度が変わる | 研究で確認されている |
| 水温が遊泳深度に影響する | 研究で確認されている |
| 海底地形や周囲の環境も影響する | 研究報告あり |
サケ釣りには「この色はメスが食う」「この時間はオスが多い」といった経験則がたくさんあり、それ自体は釣りの楽しみのひとつです。長年同じ釣り場に通う人の経験が当たることもあるでしょう!
ただし「経験的にそう感じる」ことと「科学的に証明されている」ことは分けて考える必要があります。



じゃあ結局、棚を考えるときは何を見ればいいの?



『メスは何m?』ではなく『今日のサケは何m?』を見るのが一番です。次の釣行で周りが釣れ始めたら、釣れた魚がオスかメスかだけでなく、その人のウキ下もこっそりチェックしてみてください。棚を観察するのが、今までよりちょっと面白くなるはずですよ!
北海道でサケ釣りをする場合は、棚や仕掛けだけでなく河口規制の確認も忘れずに! 2026年の河口規制については、「北海道さけ・ます河口規制一覧表」で振興局・河川ごとにまとめています。



